Moonlight scenery

   “ The cross reason of the prince?
 


気候が不安定なのは、何も日本に限ったことではないそうで。
そういや、季節外れの雪でニューヨークの交通網がマヒしたとか、
エアコン文化のないフランスはパリで規格外の猛暑に襲われ、
熱中症でばたばたと人が倒れて搬送されたとか、
割りと豪雨には縁があるだろう東南アジアで時季外れの大雨に冠水し、
あちこちで家々が流されたとか、
そういったトピックスを最近よく聞くようになった。

 「あれかね、やっぱり“地球温暖化”の影響なのかねぇ。」

気温が上がり、偏西風の軌道が乱れ、
極海の氷が解け始め、
海抜水位の低い土地から順に海へ呑まれて

 「ウチも国の面積がどんと減るんだろうな。」

そんな感慨を洩らした国王陛下へ、

 「こらこら、心配なのは そこかい。」

畏れ多くもクッションを投げつけてツッコミを入れた
皇太子殿下だったのはさておいて。(苦笑)
我らがR王国でも、春の雨季が今年は存外長引いてしまい。
冬が長かった欧州からの観光客を迎えるための、
看板行事でもある“カーニバル”が、
地域によっては、
陽よけではなく防水性の高いパラソルや幌を総動員して
催されてしまったほどで。

 「まあそんでも、
  ルフィの生誕祭レセプションは、
  カラッといいお天気の中で執り行えたから。」

 「そうね、例年になく盛況だったものねぇvv」

豊かな水源と豊かな自然環境がものをいう春めきの中、
瑞々しい新緑にいや映えて、
白百合に蘭にバラにアイリスにと、色とりどりの花たちが咲き誇り。
そうかと思えば、気の早いサーファーたちが渚に繰り出し、
沖合では群島を巡る快速艇が、
その航跡を刻んでアクアマリンの海面へ白い波を蹴立てる。

 そんなまでへと春が深まり、
 もはや初夏へバトンを渡そうという頃合いに。

この王国随一という人気者、
国王陛下を差し置き“王室の太陽”とまで呼ばれて、
国内外を問わずの皆様から親しまれている、
第二王子のルフィ殿下が お誕生日を迎えるのだが、

 「今年は 雨を厭うたクチの皆様も
  そっちへ どっと押し寄せましたからねぇ。」

催しの幾つかが中止になっただの、
パレードが何日分か
順延となっただのという混乱のせいもあろう、
四月のカーニバルを見切って、五月の方、
王子のお誕生日にと訪れた賓客の方々が多かったため。
おもてなしの段取りや手配にこそ遺漏なぞなかったものの、

 「そうよね。
  客席や宴の間は増やせても、
  ホストや招待主は増やせないから。」

 「ええ。」

目の覚めるようなブルーに白いストライプが走る、
ぱりっとした木綿のシャツに、
麻地だろうアースカラーの若草色のスラックスという、
見目にもそりゃあ爽やかないで立ちの隋臣長殿が、
執務室のバルコニーから ちろりんと見下ろした先。
翡翠宮の中庭、噴水の傍の木陰にて、
此処の主人がぽつんと一人で涼んでいるのだが。
くたりと大理石の縁へ凭れ掛かっている小さな人影へは、

 「あらまあ。」

こちら、アイボリーのショートジャケットと
スリットにしゃれたステッチの走る
セミタイトスカートというアンサンブルを、
そのグラマーな肢体へ決めておいでの佑筆こと書記長様も
やれやれという苦笑を見せるばかりであり。

 「判りやすい奴だな、おい。」

ほんのさっきその傍らを通り過ぎたらしい、
大柄の営繕・工部担当のお兄さんが、
やれやれという声を発しのも、そんな彼を指してのことらしく。

 「昨夜の宴が忙しかったなぁ判るがよ。
  外交大使なんだし、日頃もようよう笑ってる奴なんだ。
  それがああも膨れてござるのは、あれだろ?
  気に入りのあいつが居ねぇからなんだろ?」

微妙に下町訛りの喋りっぷりが粋な彼だが、

 「…そうね、
  あんたやウソップが
  無闇矢鱈に肌を露出するシーズンの到来でもあるのよね。」

 「お? お言葉だが、
  俺りゃあ真冬でもブーメランパンツが身上なんだぜ?」

 「威張るな、変態

 何だよ、王宮内まで来賓があるときゃ
 我慢してズボンを履いてやってようが。

 黙れ、視覚的ゲリラ…というような、相変わらずの脱線はともかくとして。

 「大体、何しに来たかな。
  今日だって居残りの客人が
  あちこちの棟にいないワケじゃあないんだぞ?」

微妙に敬語略で言うサンジなのへ、

 「俺は椅子のがたつきを直せと言われて来たんだよ。」
 「あ、そうだった。フランキーこっち。」

どうやらナミが依頼したことらしく、
ちょっとしたお約束的なやり取りはそれで収まったものの、

 「で。緑頭の護衛官殿はどこ行ったんだ?」

第二王子専属の凄腕護衛官。
本来ならば最低複数つけるべき王族直系の護衛を、
外遊先でもたった一人で余裕でこなし。
昨年の秋なぞ、出先の友好国…の場末の里で
結構な集団から襲われかかったルフィだったのに。
計画的な犯行、かつ、こっちは彼しかいなかった護衛を、
それは見事に勤め上げたのみならず。
相手の幹部格を それは巧妙に引っ張り回した挙句、
こっちの救援班の待つ陣地まで誘い出し、
そちらのお国の反政府組織とやら、
炙り出す糸口まで置き土産にしてった周到振りよ。
そうまでの辣腕だというのみならず、
その人柄にルフィがいたく惚れ込んでおり、
何でもない平時にも傍にいる彼なのは、
王子からの信頼がいかほど深いかの現れに他ならぬ。

  ……というに

今は何処にもその頼もしきガーディアンの姿が見えぬものだから、
それでああも判りやすくふて腐れているのだろうと、
そろそろ此処にも慣れて来て、
そのくらいの機微は判ると言いたいらしいフランキーだったようだが、

 「ちょっと惜しいかな、その推理は。」

予算がない訳じゃあないが、
お気に入りの椅子だから買い替えるつもりはない。
一応、ウチの国の名人に指定されてる職人さんの作品だし、
丁寧に直してねと、
優美な曲線が猫脚を描く、
書き物机へ対になってた椅子を引っ張って来たナミのそんなお言いようへ、

 「?? どこがどう惜しいんだ?」

水準器と曲尺と糸ノコを革製の道具巻きから取り出しながら、
そうと訊き返した彼だったが。
これ敷いてからやれと古新聞を差し出しながら、
サンジが応じてのいわく。

 「確かに緑頭が居ないから気を抜いてるルフィじゃあるが、
  あれは ふて腐れてるというより、顔が凝っててダルイらしい。」

 「はあ?」

何だそりゃと素っ頓狂な声を出す大工さんなのへ、
くつくつと楽しそうに笑う、王子づきお傍衆の二人であり、

 「チョッパー以来だな、その反応。」
 「ホント、新鮮よねvv」

決して彼の推量を浅いと馬鹿にしているのではないらしく、

 「うん。日頃からも笑顔が地顔みたいなルフィなんだけどもね。」

そこはなかなかよく見てるなぁと思ったけれど、
でもねと、きれいな白い指を立て立て、ナミが付け足したのが、

 「それは心から楽しいときの、言わば素顔ってやつでしょ?
  そうでないときに、でも笑ってなきゃいけないとなると、
  人はどうするものかしら?」

 「そりゃお前、作り笑いを…するしかない。」

おおお、そうかそれでかと、
ここでやっとこ納得がいった彼であるらしく。

 「その上、来月の外遊先での警護の打ち合わせに出向いてて、
  ゾロもいないんだもの。
  そりゃあ思い切り 手を抜いてるわよ、ルフィったら。」

ある意味、現金なことにという点も大当たりじゃあったけど、と。
苦笑したナミが、だが、
何かに気づいて“ほらほらvv”と男衆二人を手招きすれば。
バルコニーから見下ろす先、
噴水が勢いよく吹き出したその向こうで、
ぴょこりとバネ仕掛けのお人形みたいに立ち上がったその王子様が、
木陰の奥向きからやって来た人影へ、おーいと手を振っているところ。

 「そりゃあにこやかに笑ってるに 500。」
 「俺りゃあ 2000だな。」
 「それじゃあ賭けになんないわよぉ。」

大人たちの苦笑をよそに、
小さな王子様、待ち兼ねた護衛官殿へ、
そりゃあお元気に飛びついたのでありました。




      〜Fine〜  14.05.11.


  *お誕生日という
   時期というか設定だけのお話になっちゃいましたね。
   でも、こちらの王子様はこういう、
   使い分けとも微妙に違う“事務的な”顔も自然とこなしている人です。
   王族もこれで大変なんだぜ?とか言ってそうですね、
   冗談めかして、でしょうけど。


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